プロローグ:現実世界2
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『昨夜未明、量子技術のパイオニアであるM.O.Sは、同社の研究施設で大規模な爆発が発生したことを発表しました。幸いにもけが人はおらず、施設周辺はMOSの私有地であったため、被害は研究所の1棟に限定されたとのことです。事故の原因については現在調査中であり、判明次第、詳細を公表する予定としています。』
テレビの報道番組が淡々とニュースを伝えている。キャスターの冷静な声が病室の空気に溶け込むように流れた。
「なんの研究してたんだろう…」
ベッドの上で朝ごはんを食べ終えたカズが、ぼそっとつぶやく。
「カズ君は、まだ10歳だっけ?それなのに朝からニュースなんて見るんだねー。偉いねー」
向かいのベッドで嚥下食を食べながらユミコが話しかける。その穏やかな声に、カズは軽く笑みを浮かべながら、無言で会釈する。
タイミングを見計らったように、この部屋の世話係であるリンが入ってきた。
「ユミコさん、しゃべってないで、ご飯ちゃんと食べてくださいね。30分後には仮眠所行きますよ」
手際よく片づけの準備をしながら、ユミコに声をかける。
「はいはい」
ユミコは少し照れたように笑い、スプーンをゆっくりと動かし始めた。
「また事故かー。この会社、先月も何かあったよね。危ないものでも作ってるんじゃないのー」
リンがニュースに視線を向けるカズに、軽い冗談を交えて話しかける。
「そんなことあるのかな…」
カズは困ったような顔で、まるで『僕に言われてもわからないよ』という表情で答えた。
「まあ、私たちには関係のない話だけどねー。」
リンは肩をすくめるようにして笑いながら言った。
「はい…」
カズは少し気の抜けた返事をする。
「それで、カズ君は、えーと、11時30分から3号仮眠所に行く予定ね。今日は『楽しい夢を見るレポート』だって」
リンがメモ帳を確認しながら、軽い調子で伝える。
「わかりました」
カズは短く答える。
「また時間になったら迎えに来るから、それまでに準備しておいてくださいね」
そう2人に言い残すと、リンは慌ただしい足取りで部屋を出て行った。
カズはテレビを消す。それから、机の上に置かれた本に目を向けた。
-ドリーマーのススメ-
カズはその本を手に取り、ページをめくり始めた。
外では、窓を叩きつけるような大雨が降り続けている。