プロローグ:現実世界1
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ドーンッ!
時間が止まったかのような静けさに包まれた人里離れた荒野の真ん中で、地響きと共に大きな爆発音が鳴り響いた。
爆発した建物から離れた施設で、研究員たちは寝巻のまま避難を急ぐ。
「所長!これで研究員全員がバスに乗りました!」
主任研究員は施設の扉から駆け出し、爆発によって崩れゆく建物を見つめる所長に小走りで近づいた。その声には安堵と焦燥が入り混じっていた。
「ありがとうございます。けが人が出なかったのは、不幸中の幸いですね。では、急いで出発しましょうか…」
所長はそう言ってバスに乗りかけたが、ふと足を止めた。
「どうかしましたか、所長?」
主任研究員が不安げに問いかける。所長は少しの間、崩れた建物を見つめ、静かに言葉を紡いだ。
「いや、私はここで本部からの緊急部隊を待つことにします」
その一言に、主任研究員の表情が強張る。
「それは危険です、所長!」
思わず声を荒げる彼を前に、所長は落ち着いた口調で応じた。
「私はこの施設の責任者です。事故が起きた以上、原因究明に立ち会うのが私の役目です」
「ですが、それでは…」
所長は静かに手を上げ、主任研究員の言葉を制した。
「君たちは安全な場所へ行きなさい。私は大丈夫です。緊急部隊もじき到着するでしょう」
所長の瞳には揺るぎない決意が宿っていた。主任研究員は何かを言いかけたが、説得の余地はないと悟り、言葉を飲み込んだ。
「わかりました。では…」
主任研究員はそう言いながら、バスの扉を閉めるためのレバーに手をかけた。扉が完全に閉まる直前、まるでその一瞬に全てを託すように、所長に声をかける。
「研究所が再開されたら、またご指導をお願いします」
所長は軽く微笑み、静かにうなずいた。それ以上の言葉は交わさず、扉は音を立てて閉じた。
バスはエンジン音を響かせながらゆっくりと動き出し、次第にスピードを上げていく。バスが完全に見えなくなるのを確認した所長は、深く息を吐いた。そして、車に向かって足を踏み出す。
運転席に乗り込むと、所長は一瞬、爆発した研究棟の方向を見つめた。黒煙が空へと薄く漂っている。
『ここからは君と私だけの極秘任務だ』
無線機から声が流れる。
所長は無言でハンドルを握り直し、エンジンをかけた。アクセルを踏み込むと、車は低いエンジン音を響かせながら静かに動き出す。所長は決然とした表情でハンドルを握り締め、車を研究棟へと走らせた。