第1章 ハザマの世界 5
ドリームモンスターたちは、一度召喚されれば、自分を召喚したドリームプレイヤーの指示に従い、自らを顧みることなく戦わなければならない。彼らがどんな思いを抱えていようと、それは重要ではない。ただ与えられた使命を果たす――それが彼らの存在意義とされているのだ。
そしてそれは、自分が「正義」の側なのか「悪」の側なのかすら気に留めることはない。ドリームプレイヤーから与えられる指示こそが絶対であり、彼らにとって召喚とは、勝利を目指してその忠誠を尽くす儀式に等しい。
この現実を「ドリームモンスターの運命」と割り切り、ただ黙々と役割を全うする者もいる。彼らにとってモンスターたちは戦いの道具に過ぎず、感情を挟むことは無意味だと考えるのだ。
しかし、タックは違った。
タックはドリームモンスターたちも感情を持った生き物であり、傷つけば痛みを感じ、戦いに敗れれば悔しさを抱える存在だと信じている。彼にとってモンスターたちは、単なる召喚された存在ではない。彼らにも心があり、負った傷や苦しみは軽々しく無視されて良いものではないと思っている。
それがたとえ運命であっても、そんな重荷を抱え続けることに耐えられる者はいないはずだ―タックはそう信じている。
だからこそ、彼はモンスター一体一体の個性や気持ちを理解しようと努め、入念に心と体のケアをすることを何よりも大切にしている。タックにとってそのケアは、ただの治療ではない。彼らに少しでも寄り添い、癒しを与えるための方法でもあった。
「ルーシーさん、準備できました」
タックが呼びかけると、ルーシーはドラプニの横に立ちながら短く返事をする。
「オッケー」
ルーシーはタックが丁寧に処置した傷口を見て、軽く感心したように口を開いた。
「ほんと、びっくりするくらい綺麗にするわね。3年目でこれはほんと上出来。ここまでだと、副作用の心配もないわ」
「早くスカークラを塗ってあげてください」
タックの声には少し焦りが混じっている。
「はいはい。ドラプニちゃん、ちょっと染みるかもしれないけど、我慢してね」
ルーシーはタックほど悲観的に物事を考えるタイプではない。それでも、ドリームモンスターの気持ちを大切にしながら、丁寧に治療を行う姿勢を忘れない。それが、タックと長くペアを組んで仕事ができる理由なのだろう。
「はい、これで終わり。ほんと、小さな体でよく頑張ったね」
ルーシーは笑顔でそう言いながら、治療を終えた。
「あとは24時間も安静にしていれば、傷はきれいに治るわ」
「よかった…まあでも…」
タックは言葉を切りながら、小さなため息をついた。
「ほんと暗いわね。あんたが怪我してるわけでもないのに、そんな顔してたら、この子だって気を使うでしょ」
ルーシーは呆れたように言い放つ。
「すみません」
「もう、いつまで陰気臭い顔してんのよ。しゃきっとして、先生のとこ報告行くわよ」
「…はい。」
タックはルーシーに促され、静かにドラプニの体をさすりながら「お疲れ様」とつぶやき、ケン先生の部屋へ報告に向かうために第三分室を後にする。
